雑記帳

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"チームが機能するとはどういうことか" 書評

所属する組織で期待される役割が変わり、これまで以上にチームの動き方に意識を向ける機会が増えた。
どういう事を考え、働きかけるべきか学ぶために、Amy C. Edmondson著の "チームが機能するとはどういうことか"を読んだ。
本の刊行自体は2014年だが、今読んでも内容の古い点などは感じられず、リーダーがどういうスタンスであるべきか、チームメンバーにどうあってもらうべきかなど、チーミングについてよくまとまっていた。
今後大いに参考としていきたいと思ったので整理がてら書評を書く。

この本をおすすめする人

- チームを率いる役割を担う人
- チームのリーダーとしてどう考え、振る舞うべきか悩んでいる人
- チームメンバーにどういったスタンスでいてもらえばよいかわからない人
- 仕事の特性を踏まえ、チームがどう学習していけばいいか知りたい人

世の中には様々な仕事の特性があり、組織規模に合わせた様々なサイズのチームが存在すると思う。
そういった様々な背景や状況のチームを率いる人に対して、リーダーとしてのあり方やチームメンバーの行動変容の方法など様々なアイデアフレームワークを提供してくれる本である。

当然それらのツールをそのまま適用してもうまくいくわけではないが、自分たちを一度客観視するためにはとても有用な本だと思った。

全体の構成

この本は全部で3部、8章構成になっている。
第1部では、チーミングとはなにかやそのプロセス、メリットなどの説明を行っている。
続く第2部では、チーミングの人間的な側面について主に述べ、フレーミングを使った行動変容や心理的安全、失敗の重要性について述べている。
最後の第3部では、どのように旧来の組織から自律的にチーミングを行える組織へ変容させたかを実例を交えながら説明している。

参考になったところをピックアップ

実行のための組織づくりから組織学習を支持する働き方へ

近年までの組織は、"実行するための組織づくり"が重要だった。つまり工業化に伴い大量生産が可能となり、徹底的に管理統制を行うことでライバルよりも効率的、経済的な経営や製造を行うことが求められた。 計画の段階からすべてを予測し、確実に物事をすすめることに重点が置かれていたのである。
しかし、競争がグローバル化し顧客の期待が絶えず変化するようになると、不確実、予測不可能なことが増え、それまでの着実な実行を是としていた組織が立ち行かなくなる場面が増えた。
そういった社会変化の中で新たに生き残る組織は、"実行するための組織"ではなく"組織学習を支持する働き方"へシフトできた組織だった。
組織学習を行うために必要なのがチーミングである。

チーミングとはなにか

"チーミングとは、新たなアイデアを生み、答えを探し、問題を解決するために人々を団結させる働き方のことだ。" と著者は述べている。

緊密な協調を維持しつつ、絶えず変化する様々な状況に対応しなければならなかったり、多様な分野の考え方をまとめる必要があったり、今日のようにリモートワークが浸透しメンバーが異なる場所にいながら協働する必要があるときなどに、チーミングが不可欠となる。

成功しているチーミングには以下の4つの行動が伴っている。
- 率直に意見を言う
- 協働する
- 試みる
- 省察する

これらを意識し、うまくチーミングを行うことで、組織のパフォーマンスが上がり職場環境が向上する。
それによって、更に協働しやすくなり、試みた結果から得た失敗を公にして組織内でのフィードバックループが高速に回るようになる。

チーミングを促すリーダーシップ

当然ながらチーミングは自然発生的にできるようになるわけではなく、誰か(主にリーダー)がチーミングを促進していく必要がある。
チーミングが成功する場合、組織のリーダーは以下の4つの行動を取る。
- 学習するための骨組みを作る
- 心理的に安全な場を作る
- 失敗から学ぶ
- 職業的、文化的な境界をつなぐ

組織の仕事を分類し、メンバーに協働する意欲を持ってもらうためには、フレーミングを行い失敗を公にしてそこから学ぶために心理的に安全な場を作り、チームの垣根を超えて協働し成功するために越境しコミュニケーションをリードする必要がある。 本書内の第6章ではチーム間にどういった境界があり、どうリードすべきかが具体例とともにまとまっているので、チーム間の越境に悩んでいる人は一読することをおすすめする。

チーミングをリードすべきは、不安を武器にしてメンバーを管理しようとする人ではなく、信頼が置け、互いを尊敬し、意見の衝突が不可避であることを理解したうえで、そうした困難ときちんと向き合える人である。

プロセス知識ベクトルを用いて自身の仕事を客観視する

どんな仕事の特性であっても同じような学習をすればよいわけではない。

著者は、本書の中で知識の成熟度と不確実性の2軸から、
- ルーチンの業務(知識の習熟度高、不確実性低)
- 複雑な業務(知識の習熟度中、不確実性中)
- イノベーションの業務(知識の習熟度低、不確実性高)

という3つの志向を定義し、これをプロセス知識スペクトルと名付けた。
ルーチンの業務はこれまでの実行のための組織のやり方に最も近いものであり、確立されたプロセスの中で如何に効率性と信頼性を担保しながら絶え間なく改善するかが求められる。
複雑な業務では、確立されたプロセスと新たなプロセスが混合し、不確実性が高い。この業務の中では失敗は起こりうるものと捉え、率直さと警戒の文化を構築し問題解決に当たることが求められる。
最後のイノベーションの業務では、結果が全く予測できないため、失敗がむしろ望ましい場合がある。この業務ではとにかくトライアンドエラーを促し、相互依存の中で支援し合うことが求められる。

重要なのは組織の仕事の不確実性と相互依存の度合いを見極めることであり、不確実性の度合いによって試行と失敗の許容度を変え、相互依存が高い場合はチーム内外の越境を積極的に促すようにリーダーが働きかける必要がある。

フレーミングで自身やチームメンバーの行動を変える

フレームとは物事の解釈の仕方であり、仕事への解釈を変える=リフレーミングすることによって行動変容をすることができる。
リーダーの役割は、自分が相互依存しており失敗することもある、あくまで方針を決める役割である。というようにリフレーミングする。
メンバーの役割は、その仕事にメンバーが不可欠な存在であり、待ち受ける困難を乗り越えるために重要な意見をくれる。というリフレーミングを行う。
これらのようなフレーミングを学習フレームと呼び、組織学習のために不可欠なものである。

プロジェクトやチームの発足時に一度伝えればよいわけではなく、これらは仕事を通じて何度も伝え、それと同時にリーダーは明確で説得力のある目標を伝える必要がある。

上手に失敗する

失敗は怖い。なぜならこれまでの実行するための組織の中では失敗は必ず避けるべきものであり、失敗したら叱責され評価を下げる原因になるからだ。
しかし様々なバックグラウンドを持ち、目の前の不確実性の高いチャレンジングな仕事に向き合うためには失敗は不可避なものである。 失敗がもたらす重要な情報は、組織学習を行える組織にとっては非常に有用であり、組織はその失敗から学んでより生産的になり成功することができる。
失敗から学ぶことを促進するには、失敗を報告した人を歓迎し、失敗についてデータを集めて意見を意見を求めて分析を行い。試みとそれに伴う失敗にインセンティブを与える。

失敗が歓迎されるとはいえ、仕事内容によっては所定のプロセスに従わなかったり能力不足などの原因による明らかに歓迎されない失敗がある。どこまでが歓迎される失敗であるかリーダーの暗黙的な判断で決まってしまうと、メンバーはその境界線を探るようになり心理的安全性が保たれなくなる。どういった失敗が称賛に値し、非難に値するかを明確にすることによって、メンバーは非難に値する失敗を避け、歓迎されるべき失敗を積極的に報告するようになる。

おわりに

ブログとしてまとめてみると、継続的な改善についてはアジャイルの考え方と共通するものが多く、これまで読んできた組織開発や開発プロセスの本に書いてあった内容が多かったものの、フレーミングの話や仕事の分類(プロセス知識スペクトル)、許容される/されない失敗のボーダーを明確にするなど、あまり意識できていなかった自身やチームの改善点に改めて気付かされた。
優れたプロセス、フレームワークであってもそれを促進するリーダーの熱意がないとなにも成せないので、これからも定期的に振り返りつつ継続的に改善していきたい。